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妻の愛人に会う

 今年のKorean Art Film Festival、先月の「黒い土の少女」に続いて今月は「妻の愛人に会う 아내의 애인을 만나다」を見た。

 見たのはもう1週間も前なのだが、忙しくて記事をまとめられずにいるうちに、東京での上映はすでに終わってしまったようだ。

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 江原道ナクサンのハンコ屋が奥さんに浮気された。相手はソウルのタクシー運転手だ。ハンコ屋はソウルまで行き、奥さんの浮気相手のタクシーに客として乗り込む。真夏のソウルから、国道をひた走り、山を越えて江原道ナクサンまで…。

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 まず、出だしから女優さんの脱ぎっぷりが爽快でよかった。その後しばらく、タクシー内での中年男2人のやり取りが続くが、台詞も表情も味わい深い。中でもハンコ屋役のパク クァンジョンのダメ男ぶりは完璧だ。

 ハデハデパッチワークの車カバー、峠道を転がる大量のスイカ、立ちションの最中に崖の下から上がってきてオシッコを散らばすヘリコプターなど、奇抜でシュールなシーンも多いのに、緻密な演出と作り込みで、違和感がなくおもしろい。
 この監督の力量とセンスには脱帽です。

 ただし、細かいところで気になった点もいくつかあった。

・ハンコの書体
 冒頭、ハンコに「씨발(マ○コ野郎)」と彫るシーンがあるが、その書体が、版画っぽく作ったパソコンのフォントっぽくて、印鑑の書体に見えない。

・ヒゲ剃りあと
 夕方から飲み続けて、酔っぱらって眠った次の朝、ヒゲが全然伸びてない。

 このへんは、全体の完成度が高いだけに、ちょっとツメが甘いように思われて残念だったなー。
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 妻に浮気されても、妻に対するストーキングと自分の妄想の中での復讐しかできず、終盤でせっかく女神に出会ったのに中折れして(?)泣き出しちゃったハンコ屋。浮気がばれて家を出て行ったその妻。見た目がよくチ○コも固いタクシー運転手に愛されながらも「地獄だ」としか表現できない若いアジュマ。自分の行状は棚に上げて、ハンコ屋と自分の妻とが「した」のか「しなかった」のかだけに最後までこだわる運転手…。
 肩のこらない、笑える映画ではあるが、よく考えてみると4人の登場人物が誰も幸せにならない。
 ある意味「黒い土の少女」にも匹敵する救いようのなさだ。

 道中で立ち寄る、小さな街のタバンのアガシ(コーヒーの出前持ち兼売春婦)に、二人の奥さんの将来の姿を見るのはウガチすぎでしょうか?

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 運転手の奥さんがカラオケで歌った曲は、한영애(ハン ヨンエ)の「누구 없소?(誰かいませんか?)」だ。私が韓国にハマりはじめたころに出会って、ますますハマっていくキッカケともなった、個人的にも思い入れの深いコリアンブルースの名曲だ。それが、思いがけない場面で歌われて、ハンコ屋と同じく、私もこの奥さんが好きになった。

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 直接は関係ないけど、男女間のビミョーな気持ちと関係とを描いたロードムービーとして、「세상 밖으로(この世の外へ)」を思い出した。
 いわゆる「韓国映画」の認知度は、98年の「シュリ」のヒットで一気に高まったわけだが、その前の94〜96年ころ、韓国映画にとっての、マグマの鳴動のような時期があったと思う。
「세상 밖으로」も、そのころの意欲的な作品のひとつで、この時期の韓国映画を私はもっと見たい。広大な韓流コーナーのほんの一角で良いので置いてください!

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 ハンコ屋役を好演したパク クァンジョンさんは現在、肺癌との闘病中だそうだ。
 快癒を祈ります。


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by kobugimori | 2008-05-05 16:35