田月仙「禁じられた歌」

 在日女性による日韓文化交流史みたいな本は、私が読んだかぎりでは例外なく記述が情緒的で結局なにが言いたいのかよくわからず内容が薄い。
 純情な読者なら情緒に浸って涙ぐむこともあるのかもしれないが、韓国好きも私のように擦れてくると、著者が日韓間で股裂きにあって内股がプルプル震える痛々しい姿を見せられるようで白ける。

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 図書館でたまたま見かけた中公新書ラクレの田月仙(チョンウォルソン)「禁じられた歌」も、タイトルからして女くさい情緒の垂れ流し本だろうとは思ったが借りるのはタダだしまいっかーみたいなノリで借りてみた。
 するとこれがまあ「記述が情緒的」というのはその通りではあるのだが、情緒や感傷に浸る前に当事者にのこのこと会いに行って話をいろいろ聞きだしているところがすばらしい。
 著者は国際的に活躍するソプラノ歌手なのにジャーナリストとしての適性もあるようだ。

 この本には、民謡「アリラン」や歌劇「春香伝」などにとどまらず、「동백아가씨(椿娘)」「카스바의 여인(カスバの女)」「가슴 아프게(カスマプゲ)」などの韓国トロットの定番、日本文化の流入が規制されていたかつての韓国でなぜ皆が知っているのか私も不思議だった「ブルーライトヨコハマ」や「恋人よ」などの日本歌謡、80年代韓国オタクにはなつかしい各種「健全歌謡」まで取り上げられている。
 それらの歌の背後に隠された感涙もののエピソードの数々が、数十年の時を経て、歌い手や作曲家など当事者の口から田月仙に語られるわけだ。特に、孫牧人や高木東六など、すでに物故した大家の話はこの上なく貴重だ。
 これらの対談は聞き手が田月仙だからこそ実現したのだと思う。歌手とはある意味「巫女」だと常々思っていたがまさにその通りだ。
 コリアンロックも軍事政権下でずいぶんと弾圧されたのにこの本には一曲も入っていないのが大いに不満ではあるが、韓国大衆歌謡に興味を持つ人なら一読して損のない好著です!

 較べるようで申し訳ないのだが、冒頭に書いた「記述が情緒的で内容が薄い」本の典型が岩波新書「日韓音楽ノート」姜信子著、だ。
 日韓両国の大衆歌謡のルーツを探る、というテーマは私にとっても大関心事なのに、取材も論考もすべて中途半端で何も心に残りませんでした、すいませんけど!




 ↑ 本文には直接関係ないが第三共和国時代にもっともソウルフルだった歌手キムチュジャ(金秋子)の「커피 한잔(コーヒー一杯)」、ギターもボーカルもイカすっす!
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by kobugimori | 2009-06-30 18:03 | ポンチャック