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岩井志麻子「タルドンネ」

 もう5〜6年前だと思うけど、岩井志麻子の「ぼっけえ、きょうてえ」(岡山弁で「すごく恐い」だそうです)という小説が、怪奇小説大賞だったか、そんなような賞を取って話題になっていたので、私も読んだことがあります。
 遊女が客に、自分の凄まじい生い立ちを一人称の岡山弁で寝物語に語って聞かせるというスタイルで、行間から立ちのぼるオーラが非常に日本的に妖しくて恐ろしくて、深い感銘を受けました。
 作者の岩井志麻子は、その後何冊も本を出したのは知ってはいましたが、「ぼっけえ、きょうてえ」の印象が強すぎて、かえって他の本を読む気にはなれませんでした。何を読んでも、「ぼっけえ、きょうてえ」の独特の世界から受けた感銘には及ばないだろうと思うと、読む前に興ざめしてしまうからです。
 ところがその岩井志麻子が最近「タルドンネ」(韓国語で月の町=貧民窟)という小説を出しました。それを知ったとき、内容は知らずともあの岩井志麻子と韓国の組み合わせなら読まないわけにはいくまいと購入を即決、ただし読むのは年末の慌ただしい雰囲気を避け、お正月のゆったりした気分の中で浸ろうと思い、その通りにしました。
 内容は、2〜3年前に実際にソウルで起こった、出張マッサージ嬢連続殺人事件をモデルにしたもので、犯人と刑事、そしてこの事件に興味を持つ好色な日本人の女流小説家の愛人であるホテルマンの3者が、ともにタルドンネ出身であるという設定です。
 小説なので、どこまでが本当の話でどこからが創作なのかははっきりしませんが、殺人の場面と、死体を解体する場面がナマナマしく露骨でゲロゲロでした。読んでもらえばわかりますが、辛ラミョンとプデチゲはしばらく食べる気がなくなりました。この気持ちの悪さ、正月に読んだのははっきり失敗だったといえます。
 だからそういうのが苦手な人には勧めませんが、新村の場末な方面と黄鶴洞ガラクタ市場という私の大好きな場所が主な舞台として出てくるので、血まみれ内蔵デロデロ系スプラッターが好きで、酔っぱらいのゲロ吐きを目撃した直後でもラーメン喰うのが平気だったりする人は、ぜひ読んでみてください。
 それにしても、言葉もたいしてできないハズなのにこの取材力と創作力、さすが岩井志麻子ですな。調べてみると、これまで思っていた以上に強烈な人のようで、世界各国にセフレがいるらしいし、エロに対する自分の貪欲さなどを露骨に綴ったエッセイなどもあるらしいし、「ぼっけえ、きょうてえ」以外の小説もやっぱりおもしろそうだし、他の本も読みたくなりました。

 ところで、この「タルドンネ」もそうだけど、社会の病巣をえぐって読者の鼻先に突き出すような小説のジャンル、日本にはたとえば松本清張とか横溝正史とかのように昔からあるけれども、韓国にもあるんでしょうか? あったとしても、自己愛の強い韓国人なんかにはちょっと売れそうもないけど、どうなんでしょう? あるなら読んでみたいものです。
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by kobugimori | 2007-01-05 23:09