格差社会とナショナリズム

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 日本で、90年代の半ばころから急速にナショナリズムが強まった原因については、たとえば冷戦体制が崩壊して社会主義が求心力を失ったとか、9.11テロや北朝鮮による拉致問題が、平和の続いた日本人にも「敵」の存在を意識させて国防意識が高まったとか、いろいろ言われていますけれども、日常生活の中で私が実感したのは、
(1)インターネットの普及
(2)戦争体験者の減少
この2つです。

(1)については、インターネットが普及しはじめたころ、「これからは国境の意味がなくなる」というようなことがさかんに言われていて、確かに自分のパソコンが世界とつながるという意味でその通りではありましたが、現実には、まず言葉の通じる者どうしが集まり、次に世代や考え方の近い者どうしが群れ、結果として、異物が排除される形で民族主義が先鋭化したということがあると思います。

(2)については文字通りで、この世代は人口もどんどん減っていくし、高齢化によって社会に対する発言力が弱まって、民族主義的なものに憧憬を抱くような若者をたしなめる人がいなくなった、ということです。
 これは韓国でも事情は同じで、実際に日本の統治を体験し、日本語で教育を受けた世代は、日本のこと、日本人のことを直接的によく知っているから、無分別な反日ナショナリズムに対しては、実はかなりブレーキになっていたんです。もっとも韓国では「親日派」のレッテルはすなわち身の破滅を意味しますから、表立って日本の味方になる人は少なかったにしろ、日本人にとっては「言葉が通じる」という以上に「話が通じる」ありがたい存在だったわけですね。
 最近、歴史認識や領土問題で摩擦が激しくなるばかりなのは、韓国政府関係者の中から「話が通じる」世代のほぼ全てがいなくなってしまい、伝統的な日韓交渉のチャンネルが閉じられてしまったということも大きいのではないかと思いますよ。

 ところで、なんでいきなりこんなことを書き出したのかというと、基本的にナショナリズムは私の敵で、それに関連して、たとえば今年のワールドカップやベースボールクラシックスのような国際的なスポーツの試合での韓国人の熱狂ね、日本でもまあ盛り上がってはいたけれども、それとはケタが違うわけですよ、しかも北朝鮮のように強制的に動員されたわけでもないのに何十万人も集まってくるわけよ真っ赤な群衆が。
 私はこれが気持ち悪くて、これはなぜなのか? 私が知っている韓国人はもう少しおおらかだったはずなのに、「たかが野球」「たかがサッカー」にこれほど熱くなるのはなぜか? このことを、今回韓国に行って、私の好きな清渓川とかその周辺とかを歩きながら、そして帰ってからもずっと考えていたわけです。

 そこで気づいたことは、まず、韓国は日本よりも階層間の格差が大きい。格差の広がりを韓国では「両極化」という言葉で表しますが、これがまさにその通りで、輝くばかりの高層アパートが林立するソウルで、道端に並べた古着に群がる人もすごく多いんですよ。また、社会の変化が激しいため、世代間の葛藤も深刻である。思想的にも、たとえば北朝鮮に対する態度が支持政党よっては正反対。さらに、韓国に独特の問題として、地域間の対立、というのもあります。
 ようするに、一口に「韓国」「韓国人」と言っても、その中では階層や世代や思想によっていくつもの集団が寄り集まっているわけです。
 ところが、国民間のこうした深刻な対立を一挙に解消し、階層も世代も地域も超えて「ウリナラ」との連帯感に酔いしれる、それが、ワールドカップなど国際的なスポーツでの熱狂なんですな。
 こういう民族主義的な熱狂のもとでは、たとえば貧乏な階層の人たちは、日常生活の中で感じる閉塞感や劣等感、将来への不安から一時的にしろ逃れることができ、金持ち階層は、いつも心の隅で感じる後ろめたさを忘れることができる。外国と戦うわけだから、地域感情も世代間の葛藤も問題にはなりません。韓国人でありさえすれば、誰もが「ウリナラ」の一員であることを実感し感激すると。
 もしかしたら、昭和初期の日本や、ナチス台頭期のドイツもそうだったのかもしれないけれども、各階層間、集団間での葛藤が大きいほど、ナショナリズムは高揚するのではないでしょうか? 国民間の葛藤の大きさこそ、民族主義的な熱狂の原動力となるのではないでしょうか? 
 
 ついでに言えば、韓国の場合、「反日」もそうですね。「反日」には誰も反対しませんから、スポーツと同じく民族の連帯感を感じることができるわけですよ。私は中国のことはよくわからないけど、世代間の葛藤や所得格差は、韓国と同じく深刻なんでしょ? 反日ナショナリズムとは、国民間の葛藤を乗り越えて民族的な連帯感を得るためのイベントである、と考えたら私としてはある程度得心がいくような気がします。

 というわけで本日の結論、韓国社会の観察によって、日本で、また東アジアの各国で近年ナショナリズムが強まりつつある原因をもう1つ見つけることができました。それは、

(3)格差が広がった

これです。貧乏人のひがみや嫉妬がナショナリストを増長させるんです!

 自分で言うのもナンだけど、やっぱり頭いいわオレって…。



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by kobugimori | 2006-09-18 21:31